論文執筆に関するアドバイス

元同僚が勧めてくれた「アメリカの大学院で成功する方法」吉原真里*1著などの本が届きました(*^ー^*)。この本でいう論文は博士課程なので、論文の重みとスケジュール感は、私が取り組んでいる修士論文とは異なりますが、修論や調査レポートなどに参考になりそうなことがたくさん書かれていたので紹介します(但し、私の解釈なので原文とは異なる箇所も多々あるはず)。

修論に取り組んでいる同期のみんな、仕事でペーパーを書いている友達、お互いにがんばろうね★

以下、特に注釈がない限り、「アメリカの大学院で成功する方法」に書かれていたことを要約しています。
論文テーマの選び方ー自分が情熱を感じるトピックを
知っておきたいのは、どんなに思い入れのあるトピックでも、書き始めれば必ず壁にぶちあたり、いやになってしまうことが何度もあるはず。ましてや自分でもあまり好きになれないトピックならとても苦労をする気になれないだろう。自分の好きなことをやるのが一番。

どんな仕事に自分が応募できるか、どんな仕事に採用されるかを決定づけるのは博士論文のトピック。トピックに幅と柔軟性をもたせるのはよいこと。論文のトピック次第で応募できる就職先の幅が広がるので、いくつかの分野にまたがる学際的なトピックで、それぞれの分野で立派に通用するようなレベルの研究であれば、論文が扱っている分野のすべてに自分を売り込むことができる。


この本とは別の本ですが、トピックについて参考になりそうなことが書かれていたので紹介。
「読者に伝えたいメッセージを明確化せよ。一言で言えるものにすべき。適切なメッセージは、書きたくてたまらないもの。もしこのメッセージを盗まれたら怒り狂うようなもの。そして、トピックは広く浅いものではなく、ピントを合わせる(絞る)。」「『超』文章法」野口悠紀雄著より



プロポーザルについて
・プロポーザル(論文の構想案)を書く段階で、内容の濃い、しっかりした骨組みをつくておくことでそのあとのリサーチが順調に進みやすい。もちろん「案」であるから、はじめて見てから新たな発見やアイデアが出てきて内容や構成が多少変わってもOK。だからといって、「実際の論文のときにしっかりやればいい」とプロポーザルをいい加減にしておくと、リサーチの段階で何をどうしたらいいのかわからず先に進めなくなる。すべてをかけるくらいの意気込みでプロポーザルに取り組むこと
・プロポーザルには以下の項目が含まれる
①論文の概要(自分の選んだトピックの説明、論文で提示しようとする自分の命題をはっきりと述べ、そのトピックを研究することの意義を説明。〜を考察する、というだけでなはなく、〜ということを考察することにどんな意味があるのかも論じる
②方法論の説明(どういった資料を用い、どういう方法を使って分析するのか。
③論文の章立てと各章の要約。論文全体のアイデアだけではなく、それをどのように分解して、論文の形にまとめるのか提示。各章でどういうトピックを扱い、どんな資料やデータをどのように分析し、どういう論をたてるのか、具体的に説明。
④先行研究の説明とその中における自分の論文の位置づけの説明。自分のトピックに関してどういった研究がすでになされてきているのか、それらの研究が今までどのようなことを明らかにしてきたのか、これからさらに研究されなければならないことはどんなことなのかを説明。そしてそれをふまえた上で、自分が書く論文は、先行研究とどこがどう違うのか、どういう点で新しい貢献をするのかを述べる
⑤最後に、論文執筆の計画表。いつまでにどういうリサーチをして、いつまでに何章を書き・・・と完成までのスケジュールを具体的に示す。さらに、プロポーザルには一次資料・二次資料を含めた網羅的な文献一覧表が必須。



論文執筆の8割は事務処理能力で決まるー手際よく無心でサクサクこなしていくこと
実際の研究に関わる作業の大半は情報収集と情報処理。(2割は)発想の斬新さ、分析の鋭さだが、きちんと整理された情報があってのこと。きちんとした資料に裏付けされた丁寧な分析、肉付けしている事例が豊富、個々の資料の読みが精密・・・など大事。
手当たり次第に必要と思われるものを読んでいったらいつまでも終わらない。どんどん違う方向に進んで行って、なんのためにそれを読んでいたのかわからなくなったりする。ちょっとくらいはそういうことがあったほうが新しい発想が生まれていいが、いつもそれをやっていたらいつまでたっても論文が出来上がらない。頭のなかでも、紙・PC上でも自分がやっていることの見取り図、位置づけを理解した上で読むことが大事。この本・情報で求めること、ほしい答え・・・などを理解した上で読むということだと理解。

リサーチには、資料の取り寄せ、資料を集めにいくための旅程、聞き取り調査のアポなど、細かな事務処理作業が山積。こうしたことをてきぱきと効率的に進める手際のよさと、途中でなにか一つのことがうまく運ばなくてもそれですべてが停止することなく、ほかのことをすすめていく機転が重要。

また、実際にリサーチを進めてみると、集めた資料のファイリングに困るだろう。大量のデータ、資料を自分にわかりやすいシステムによって整理・保管しておく必要がある。探す時間・手間を減らすために手際よく事務処理を進めることは大事。


いつまでもリサーチしないー区切りをつけて分析・執筆に取りかかること
一定期間資料・データ収集をして、実際の論文執筆に取り掛かる。一章分リサーチをしたらその章を書き、それが終わったら次の章の分のリサーチ、という作業を繰り返すなど。「これも読まなきゃ調査しなきゃ」とリサーチしたり、大量の情報をコピーしたり、資料を文字情報として打ち込んだりしていると何かをしている気になり、論文執筆がおろそかになることも。その情報を分析、それをもとに説をうち立てる、文章にして説明したりといった頭脳を使った作業とは別モノ。
必要なリサーチを終えたらなるべく早くそちらの過程に移り、思考に時間とエネルギーをかけること。まだこの情報が足りない、とずるずるリサーチをしているのは、分析と執筆からの逃げで、いつまでたっても書くことができなくなる恐れあり。


スケジュールの立て方ー大きなブロックから小さなチャンク(塊)にブレークダウン(一日でできることまで決めてこなしていく)
自分がいつまでに論文を完成し卒業したいという時期を決め、それまでの時間を論文の章の数で割るなり、執筆にあった形で逆算して考えるのが合理的。いつまでにリサーチを終え、その章を書きあげ、教授や関係者のコメントをもとにそれに手を入れるのに何週間、というふうにはっきりしたスケジュールを作っておき、何があってもそれに間に合わせるつもりで取り組むこと。

章全体の構成を作ったら、それをさらに細かい項目に分け、日ごとに小さく遂行可能な目標を作るのが大事。ある先行研究の問題点を整理した数パラグラフを書くのでもいいし、自分が発見した資料の数点を描写するのでもいい。その日のうちにできる量の課題を自分に課し、完璧でなくてもよいからとにかくそれをこなしていくこと。とりあえず目標をクリアすれば気分もよいし、次の目標へのやる気も出てくる。


書き始め、はじめに書く章がいちばん難しい
第一章は背景説明や理論的枠組のようなものになる場合が多く味気ないので、はじめに取り組む章は、自分がいちばん情熱を感じていて、言いたいことのある章にするのがいい。書き始めの頃は、どんなものを書いたらいいのか見当がつかないので、難しい専門用語をたくさん使ったりしてしまう。このはじめの一章をあきらめずに自分で設定した締切までに書きあげることが大事。とにかく一章書いてしまえば、それをもとに教授や関係者にコメントをもらうことができ、次に何をすべきなのかも見えてくる。文章を書くという作業自体はやっているうちに確実に楽になってくる。だから、どんなに苦しくても、「この苦しみを超えてしまえばあとはずっと楽になるのだ」と信じて一章目を仕上げるまでがんばってほしい。


完璧を目指さないこと
自分に課す基準が高すぎて「これは完璧」と思えるものが書けるまで格闘していては博士論文は終えられない。あなたが読んできた論文などは、あなたが今しているような勉強を、何倍もの年数をかけてやってきた第一線の研究者によって書かれたもの。学術雑誌に載っている論文は多数投稿される論文からその分野の専門家によって審査され厳選された一握りの研究。小学一年生が6年生とかけっこしたら負けて当然なのと同じ。博士論文の段階で完璧な論文というものはまずあり得ないし、ましてや論文執筆中に各章が完璧にできあがっていくなどということは超人でなければない。執筆の段階で指導教官などから「直すべき」「わかりにくい」というコメントをもらったらもちろんそれは対応すべきだが、博士論文の名にふさわしいだけの内容と形式が整ったら、「とりあえずこれで一区切り」と見切りをつけて、校正などの最終チェックに移行すべき。


よい論文は終わった論文- A good dissertation is a done dissertation.
どんなに頭の中が画期的なアイデアであふれていても、口では立派なことをいっていても、論文を形にできなければ学位はもらえない。研究する機会はこの先いくらでもある。逆に、「もっとここをこうしたかった」と思う点があっても、とにかく形をととのえて提出すれば、その先の研究生活への道がひらけ、さらに立派な研究を発表する機会にもつながる。
長い間論文を書いていると、「もうやめたい」と思うことがあると思うが、「よい論文は終わった論文」という文句を言い聞かせ、ゴールを見失わずに、あきらめずにもうひとふんばりしてほしい。どんなに自分では不満の残る論文でも、とにかく提出して卒業式のガウンをまとうときは大きな達成感が得られるし、これまでずっと自分にのしかかっていた重荷がすっきり消えた気分になれる。


勉強会のすすめ(割愛)
自分の書いているものと、印刷されている本などの内容との落差に落ち込んだりもするが、どんなに優秀な人でも、ラフな岩石のような草稿から磨かれていくんだということを学べる。リサーチの後の分析・執筆は孤独な作業だが、定期的に集まって話をするだけで、孤独感はずっと減少する。研究はみんなでアイデアを交換しながらやるもの。


指導教授ー助けを請う、報告すること、相談すること
論文指導は教授の仕事の一部。教授の意図と違う方向に行ったりすると後から方向転換するのに無駄な時間と労力がかかる。わからないこと、なにかの選択をしなければならないとき、方向性が必要なときなど積極的に教授の助けを請おう。定期的に経過報告をすることが自分のためと教授に対する礼儀。報告しておいたほうが、「この生徒はがんばっている」という意識が教授の頭にも残るのでいい。また、奨学金や就職への応募など仕事にまつわることもそのつど教授に相談すること。この道のプロなのだから、資料の見つけ方応募書類の書き方などいろいろ教えてくれる(仕事の推薦状も教授が書くことも)。
オフィスアワーを活用。メモ・ノートを使う手際よく話をすること。聞きたいことが終わったら、世間話などせずにさっさと立ち去ること。教授に時間があって学生と話をしたかったら教授からはなしかけてくれるはずである。「教授は忙しい」のを前提に、お礼をいって気持よく出ていくべき。


その他(本の附録「アメリカ大学院を卒業するために一番大事だと思われること」より)
・大学院を人生そしてアカデミックキャリアの一つの通過点としてとらえ、博士論文も含め、卒業に必要な課題をとにかく「こなして」いくという姿勢を持つこと。
・教授といい関係を築き、それを維持すること。
・勉強のためのお金をおしまないこと。英語を直してもらうことから調査旅行にいたるまでお金で解決できること、負担を軽減できることはたくさんある。将来への投資と思って多少の借金も苦にしないこと。
・過度の自意識を持たないこと。周りと比べて自分は特別無能でも優秀でもないということを心にとどめ、地道に努力すること。
・勉強などがうまくいかないときに、それを自分の性格や能力のせいだと思いこまず、具体的な解決策を探すこと。
・自分を信じて決してあきらめないこと。頭のよさもごますりも卒業には関係ない。ただただ、あきらめないこと。
・授業が要求するすべてをこなそうとしないこと。ある程度手を抜くことを覚えること。
・勉強や生活の悩みを共有し、話しあえる相談相手を持つこと。
〜本に書かれていたアドバイス紹介はここまで。


私も友人・家族の存在に助けられています。論文の話をしていなくても、ちょっとした話・やりとりをするだけでも。いつもどうもありがとう。

【追記】
facebookの壁に貼ってあるという文を紹介。
出典:EMA THE FROG
Done is better than perfect(完璧を目指すよりまずは終わらせろ)

↓の文もアメリカオフィスだと貼ってあるのかな
What would you do if you weren't afraid?
Move fast and break things

Photo by http://detavio.com/2012/02/05/aim-for-done/

*1:この本は論文の書き方の他にも、留学準備から授業のこなし方、勉強以外にすべきことなども書かれていておすすめ!